「ITにはもはや研究部門は必要ないかもしれない」

ある大企業のシニアマネジメントの方と話しているときに出てきた言葉で印象に残っているものが、「ITにはもはや研究部門は必要ないかもしれない」という言葉です。
IT業界の技術革新は非常に早く、どれだけ早く市場に投入できるかが事業の命運を決める場合が多々あります。その様な状況で、日本の大企業の伝統的な事業開発モデルである研究→移管→開発→出荷というプロセスは、最初から製品を開発するベンチャー企業に比べてスピードの点で圧倒的に劣ってしまっています。

この状況に対処するために米国の大企業はM&Aを活用することが一般的です。例としてEMCとCiscoが挙げられます。こういった会社は、新規事業を社内で開発する代わりにベンチャー企業を買収して社内に取り込んでいくことで事業の新陳代謝を果たしています。これは、ある意味、研究リソースを社外に求めているということです。
冒頭の「ITにはもはや研究部門は必要ないかもしれない」という言葉は、このような買収による新規事業開発が主流となることを肌で感じている方のコメントだと言えるでしょう。

しかし、私としては、日本企業が米国企業のようにベンチャーを買収していくようになるまでには、まだかなりの時間が掛かるような気がしています。魅力的な買収対象となるようなベンチャー企業はほとんど米国にいるため、日本企業は言語や文化の壁を乗り越える必要があるためです。私も近しい経験がありますが、予想以上に大きな壁だと感じました。米国のベンチャー企業と渡り合っていける人材は日本企業に確かにいると思いますが、組織として米国のベンチャー企業を社内に取り込んで活かしていく仕組みはまだまだできていないように感じます。

そう考えると、ほとんどの日本企業にとっては、買収よりも社内にある研究成果をいかに素早くイノベーションに繋げるかという点の方が、現状では依然として優先度の高い事項であると思います。(もちろん、将来は変わっていくと思いますが)
そのような研究開発をどう行っていったらよいのか、ということを考えていたときに目に留まったのが、渡辺千賀さんの以下のエントリです。Appleは、日本企業の研究開発のよいロールモデルになるかもしれませんね。
我が道を行くApple | On Off and Beyond

で、ふと、「Appleの買収話って滅多に聞かないな」と思い、Wikipediaのリストで調べてみました。以下、2005年以降の買収件数。(WikipediaでList of acquisitions by 会社名、とサーチすると出てきます)
Microsoft 60社
Cisco 41社
Oracle 34社
Google 34社
Yahoo 29社
Apple 4社(Placebaseも入れて)
全部の買収が発表される訳ではないが、それにしても、すごい差ですな。我が道を行くApple