キャズムを超えて - Inside the Tornado

Geoffrey A. MooreのInside the Tornadoを再読しました。MooreはCrossing the Chasmで有名な方ですが、このInside the Tornadoはその続編にあたる本です。Crossing the Chasmはハイテクマーケティングにおいてバイブルのように扱われていますが、このInside the Tornadoも示唆に富んだ本で非常に参考になります。

Mooreの理論はTechnology Adoption Lifecycleの上に構築されています。Technology Adoption Lifecycleとは、新製品が市場に登場してから浸透するまでを顧客の行動様式に着目してモデル化したものです。顧客は五つのグループに分けられていて(イノベーター、アーリーアドプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)、イノベーターからラガードまで順番に製品が浸透していきます。市場のメインストリームはアーリーマジョリティとレイトマジョリティから構成されます。

Mooreはアーリーマジョリティを抑える戦いを制したものが市場の勝者となるということに気付き、Inside the Tornadoでは、いかにしてアーリーマジョリティに市場のリーダー企業として認めてもらうかについて論じています。具体的には、アーリーマジョリティが新製品を業界標準として受け入れる前を「Bowling Array段階」、受け入れた後を「Tornado段階」と呼び、そのそれぞれについて戦略を論じています。

アーリーマジョリティの人たちは世間の動きにとても敏感で、新しい技術が業界標準になるかどうかをしっかりと観察しています。業界標準として受け入れられていない段階、つまりBowling Array段階では、彼らはとても保守的になり、容易には製品を購入してくれません。Mooreは、この段階ではニッチへの絞込み戦略が必要だとしています。アーリーマジョリティの方たちを攻略するには「他の人たちが既に採用している」という状況を作りだすのがポイントなので、なるべく狭い市場セグメントにフォーカスしてその中でそういう状況を作り出せということです。そうしてニッチ市場を少しずつ獲得していきます。それがボーリングのピンを倒すことに似ているため、Bowling Arrayと呼んでいるわけです。

一方、一旦新製品が業界標準として認知されると、アーリーマジョリティの方たちは手のひらを返したように急速に導入を進めます。この急速に導入が進む段階をMooreはTornado段階と呼び、ここでハイテクベンダの勝敗が決するとしています。Tornado段階では急速に発生する市場の需要にすばやく対応することが鍵となります。

Mooreの理論で最も興味深いところは、Bowling Array段階とTornado段階で行うべきマーケティング戦略が180度転換するところにあります。Bowling Array段階では、ニッチ市場に特化したソリューションの開発や顧客との親密な関係管理に力を入れますが、Tornado段階ではソリューションをできるだけ一般化し、顧客の要望などは後回しにしてとにかく売りまくることに専念するという戦略です。

ハイテク製品のあるべきマーケティング戦略を切れ味鋭くまとめており、新製品の企画やマーケティング戦略を考える上で非常によい本だと思います。