クラウド・ハイプの先にあるもの
Oracleは先日、Sunのクラウド事業を中断すると表明しました(情報ソース)。Larry Ellison氏は前々から「クラウドはハイプだ」と言っていましたから、そのコメント通りの行動となりました。
また、米国ESG社のアナリストであるSteve Duplessie氏は「Why the Cloud will Vaporize―(意訳)クラウドが気化して無くなってしまう理由」という記事を書き、その中で「The “Cloud” market is not a market – it’s a construct.―(意訳)クラウド・マーケットは実際の市場ではなく、体よく作られた構成物だ」とかなり過激なことを述べています。
先日、このブログでもクラウド・ハイプ説を紹介しましたが、最近、より頻繁にこういった説を見るように思います。
クラウドはハイプなのか?また、ハイプだとすれば、それはどういったインパクトを市場にもたらすのか?
本日のエントリでは、このテーマをもう少し深く考えてみたいと思います。
ハイプとは二種類の意味に取れるのではないか
まず、ハイプという言葉の意味を、ある程度明確にしてみたいと思います。
私は、ハイプと言っても必ずしも悪い意味ではなく、ポジティブな見方、ネガティブな見方の二つのとり方があるのではないかと思います。
ポジティブな見方: ビジョンと実態のギャップ
これは、ガートナーのハイプ曲線のモデルをイメージしたものです。(ハイプ曲線については、前回のエントリに書きましたので、そちらを参照頂けると幸いです)
あくまで私のイメージですが、以下の様な感じです。「クラウドではビジョンが先行しすぎて、ビジョンと実際にできることとのギャップが大きくなっている。そのギャップが明らかになるにつれて、失望が少なからず生まれるだろう。しかし、この反動はメインストリーム市場がクラウドの採用を始める前触れであって、必ずしもネガティブなものではない」
要は、市場ニーズはあり、いずれ安定的な採用が始まるが、その前に期待と実態のギャップを解消するための調整期が来るに過ぎない、という考え方です。
ネガティブな見方: 実は市場ニーズがそんなに無い
しかし、一方で、ネガティブな見方もあると思います。
それは、「壮大なビジョンを作り上げたはいいが、実は、そのビジョンを受ける市場ニーズの規模は当分は大きくならない。市場ニーズが十分でないため、クラウドは一般に普及するまでに至らずニッチ向けに留まる」という感じです。
これは、キャズムに落ち込むというモデルをイメージしています。
ハイテク業界において新製品・新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場への移行を阻害する深い溝のこと。
初期市場を構成するアーリー・アドプターたちがクラウドを使うところまでは来たが、メインストリーム市場に受け入れられずにそこで頓挫するというシナリオです。
Ellison氏やDuplessie氏の主張は、恐らくこちらに属するのではないかと思います。
クラウドはどちらのハイプなのか?
では、クラウドはハイプなのかどうか、また、ハイプだとしたら果たしてどちらの意味でのハイプなのか、という点について考えてみます。
こういった議論をする際に、私は、「クラウド」を単なる一つの塊として論じるべきではない、と考えています。一口に「クラウド」と言っても、SaaSなのかIaaSなのか、もしくは企業向けなのか個人向けなのか、そこには多くのサービスの形があり、それぞれにおいて市場が大きく異なるためです。
そのため、「クラウド」全体を指してハイプかどうかというのは、少々乱暴な議論なのではないかと思います。「クラウド」に属する個々の市場を個別に見ていくことが、こういった議論では求められるのではないかと思います。
個々の市場を個別に見ていった場合、ポジティブなハイプにあてはまる場合と、ネガティブなハイプにあてはまる場合の両方がある感じがします。それぞれ、大なり小なりハイプだとは言えると思うのですが、その後に市場ニーズがどれぐらいあるかという点に関しては、個々の市場によって状況が大きく異なる感じがします。
・・・ここで、例を一つ二つ挙げて考えを述べてみようと思ったのですが、少しエントリが長くなってきましたので、また別のエントリにて、そのあたりの考えを述べてみたいと思います。
まとめますと、「ハイプと言っても必ずしも悪い意味ではなく、ポジティブな見方、ネガティブな見方の二つのとり方があるのではないか」ということと、「クラウドを一つの塊と捉えてハイプかどうかという議論をするよりも、個々の市場に分けて個別の議論を展開すべきではないか」という二点について、今回のエントリでは書いてみました。