AsperaはiPhoneのデータ転送を劇的に改善するかも―3Gだと3倍、無線LANだと10-100倍の速度とのこと

先日、「AVATAR製作時、その超巨大データはどのように大陸間転送されたか?」で紹介したAspera社のfaspですが、本日、そのiPhone向け製品が発表になりました。

iPhoneの体感速度を劇的に変える可能性がある面白い製品なので、今日はそれを紹介してみたいと思います。

Aspera社のfaspとは

まず、Aspera社のfaspをご存じない方に、概要を簡単に説明します。

HTTP/FTPのトランスポートプロトコルとして使われているTCPは、携帯電話網やWANの様なターンアラウンドタイムの大きい状況では、ネットワーク帯域をうまく使い切れないという弱点を持っています。例えば、パケットロスが発生するとウィンドウサイズが小さくなり、スループットが大きく落ちてしまいます。

Aspera社のfaspは、ターンアラウンドタイムの大きな状況下でも、ネットワーク帯域を効率的に使いきれるところを特徴としています。具体的には、トランスポート層TCPの代わりにUDPを使い、その上のアプリケーション層でパケットロスを管理する仕組みにしているそうです。TCPとは異なり、パケットロスがある状況下でもウィンドウサイズを大きく保ち、ロストパケットだけをうまく再送するような仕組みになっているそうです。

実際、AVATARの大陸間データ転送ケースでは、FTPの15〜30倍のスループットをたたき出したとのことです。

iPhoneだと効果はどれぐらいなのか

では、気になるiPhone上での効果はどれぐらいなのかを見ていきます。

Aspera社は、3G越しのアクセスの場合、平均でTCPよりも3倍速い速度を叩きだせるとしています。3倍と聞くと一見大したことが無いようにも感じますが、携帯電話にとって、ネットワークはほとんどの処理においてボトルネックですから、ここが3倍になるというのは大きな価値があるような気がします。

私は米国でiPhoneを使っていますが、3G越しでのWebサイトの閲覧は非常につらいものがあり、大体は「Read It Later」して後で見るようにしてしまいます。もし、Webサイトが約1/3の時間で開くことができるのなら、その場で見てしまう割合が大きく増えると思います。つまり、私のiPhoneの使い方が大きく変わる可能性があるわけです。

無線LANだと10-100倍にもなる?

なお、無線LAN(802.11ネットワーク)越しに長距離WANを使う場合は、TCPに比べて、何と10-100倍の速度が期待できるとAspera社は発表しています。100倍はにわかには信じ難いですが、Avatarのケースでは15-30倍という実績が出ていますので、日本・米国間のような大陸間データ転送を行う場合には、この様な大きな改善効果が期待できるのかもしれません。

無線LAN環境で、これだけの改善速度が見込めるのならば、iPhoneだけでなく、iPadやラップトップに入れても大きな可能性があるのではないでしょうか。

現在はベータ。アプリ用のライブラリもプレビュー中

なお、現在はベータ版で、画像と映像をAsperaサーバにアップロードすることだけができるようです(画像はAspera社のプレスリリースのものを引用しています)。2010年上半期中にはGA(General Availability)リリースするとのこと。もちろん、こちらにはダウンロード機能も搭載されてくると思います。

なお、アプリ向けのライブラリも当然開発しており、こちらは現在プレビュー中とのことです。個人的には、こちらのほうにより大きなポテンシャルを感じます。色々なiPhoneアプリの体感速度を、大きく変えてくれるかもしれないからです。画像や動画を扱うアプリなどは、faspライブラリを使うことで、他の製品との差異化に繋げることが可能ではないでしょうか。

コアコンピタンス活用の良いお手本

実のところを言うと、Aspera社が携帯に乗り出してくるなどとは私は全く思っておらず、意表をつかれました。しかし、考えてみれば非常に納得のいく動きだと思います。携帯ではデータ転送速度がユーザエクスペリエンスを決める上で非常に重要なポイントになっており、faspが非常に合う可能性があります。コアコンピタンスを色々な市場に活用するというビジネス戦略のお手本になるような動きだと思いました。

なお、データ転送速度が重要と言う意味では、もう一つ重要な市場があります―そう、クラウドです。実は、Aspera社は、クラウド向けにも積極的な製品展開をしています。Aspera On-Demand for AWSという製品で、Amazonクラウドにfaspを使って高速にデータ転送をするための製品です。以前、Amazonクラウドへのファイル高速転送という記事で紹介しましたので、そちらもご覧頂ければと思います。